著書紹介【海を抱いて月に眠る】

 当研究所のブログ活動として名田先生の著作をいくつか紹介させていただいている中で、ある日、名田先生の奥様から一冊の小説をオススメされた。

 在日朝鮮人は、在日朝鮮人というだけでこれまでどれほど不利益を被ってきたのか。そして、日本人としてこの問題とどう向き合わなければならないのか。そんなことを考えさせられた作品だと紹介していただいた。

 私は、その小説のことが気になり急いで近くの図書館に向かった。

 「海を抱いて月に眠る」。本書は、著者であり韓国にルーツを持つ深沢潮さんの父をモチーフに物語である。在日一世だった父は、頑固で無口。そのうえ、日本で生活する娘には韓国式の生活を強要するような一面もあった。

 そんな父が亡くなったとき、葬儀に訪れた一人の女性、そして仲間と思しき男性。娘は、疎まれながら亡くなっていったはずの父の訪問者が目の前で泣き崩れるのを不思議に思った。

 葬儀のあと、そんな父の遺品整理をしていると数冊のノートが見つかる。そこには、家族も知らなかった父の壮絶な人生が記されていた。頑固で無口なゆえに家族に素直な思いを伝えられなかった父。そして、その思いを知る前に亡くなってしまった妻。

 在日朝鮮人として本名すら名乗ることができなかった父が亡くなるその日まで家族のことを思い、戦っていたこと。

時代の流れに翻弄された一人の在日朝鮮人の人生を感じることができる本書を読んで、私も名田先生の奥様と同様に、日本人としてどう向き合わなければならないのか、また、在日朝鮮人が日本で生活する大変さ・苦しさをもっと理解しなければならないと感じた。

(文:愛媛現代朝鮮問題研究所)