本書は、2005年、日本の敗戦・朝鮮の解放60年にあたる年に執筆されたものである。
日本の敗戦直前に強制連行された朝鮮の青年・少女たちも2022年現在、100歳を超えている。
本書では、名田隆司先生が2005年時点で存命する在日一世の朝鮮人の方々に対して聞き取りを実施する様子が記されている。
2005年の話とはいえ、既に80歳を超える方々への聞き取りである。
そのため、これが最後の聞き取りになるかもしれないという思いで実施されたことと思う。
また、在日朝鮮人の方々にとっては、高齢で闘病を続ける方も多い中、昔の話などしてもどうにもならないと考えていた方もいたと思う。
しかし、先生の朝鮮に対する姿勢は、在日朝鮮人の方々の心を動かし、本書では7名の方に聞き取りを実施することができた。
なかには、過去のことを思い出し、涙を流す人もいたという。
先生は、これら聞き取りの難しさについて、「たかが聞き取り作業というなかれ。それを語り出す彼等の複雑な心中との葛藤こそが、個人史を超えた在日朝鮮人史なのだから。聞き取る側でその言葉にならない呻吟を聞き分け、聞き取るだけの努力と研究を重ねておく必要があるのは当然のことだ」と述べている。
実をいうと、私は、本書を読む中で、この言葉が一番心に響いた。
歴史を知るためには、その時代を生きた方々に直接聞くのが一番早いが、そのためには、聞き取りされる側の気持ちをきちんと推し量る必要がある。
それをしなければ、独りよがりの聞き取りになってしまい、決して朝鮮の方々のためにはならない。
今後、朝鮮問題を考える上で、この言葉を心に留めて大切にしたい。
また、本書で記されている7人の在日朝鮮人の方々の言葉をぜひ、日本・朝鮮問わず多くの方に知ってもらいたいと思う。
(文:愛媛現代朝鮮問題研究所)